水戸メンタルクリニック

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第47回日本認知・行動療法学会に参加しました

2021/11/11 更新

 

 今大会で印象深かったのは神経発達症の理解と支援についてです。日本では「発達障害」という呼称が定着していますが、これは法律用語であり、メンタル疾患以外の脳機能の障害も含みます。メンタルクリニックで対象となるのは神経発達症になります。神経発達症には知的能力障害、注意欠陥多動症、自閉スペクトラム症(ASD)などがあります。今回はその中でもASDについて記載をしていきます。

診断名の「スペクトラム」とは「連続している」ということを意味します。おおよそのイメージとしては、100人に10人くらいがASDの傾向をもち、さらに10人に1人くらいが生活に支障を抱えてASDと診断されるといわれています。そのため、ASD特性は「ある/ない」といった0か100かではなく、誰しもある程度その特徴を有しているといえます。また、その特徴を有している人たちの中には才能を発揮して活躍する人から支援を受けて生活する人まで幅広くいます。

ASD特性は基本的に生まれもったものといわれています。特性としては、心の理論や中枢性統合に特徴があるといわれています。
心の理論の問題は「他者の気持ちがわからない」という限定的なものではなく「目に見えないものの理解が苦手」という方が実際的です。他者の気持ちや集団社会での暗黙のルール(空気を読む)に限らず、目には見えない自分の気持ちや身体の不調にも気づかない人が多くいます。そのため、ASD特性を持つ人は不調に気づかずに、「パタッ」と突然活動できなくなったり、頭痛や吐き気などの強い身体症状が出現することで、初めてストレスや不調に気づくということも少なくありません。中枢性統合の問題とは「複数の情報をまとめて全体的物事を理解する能力」の苦手さになります。

たとえば、楽しく遊んだ別れ際に友達から「また遊ぼうね」といわれると、「また遊ぼう」といわれた部分的情報だけが頭に残ります。そのため、数日遊びに誘われないと「なんで誘われないんだろ」と怪訝に思います。これは話の前後や文脈、状況の情報が統合されず、「言葉」だけでの部分的な理解をするために起こる現象といえます。加えて本学会で「選考性」という言葉を初めて聞きました。ASDの診断基準であるRRB(限定された反復的な行動様式)をASDに造詣深い演者が分かりやすく解説した言葉だと思います。選考性とは、関心のあることはこだわれますが、関心のないことを強いられることが苦手な特性を指しているようです。たとえば、日本史は好きだが、授業で日本史を受けることは好きではない、そして、授業を含め関心がないことを強要されると、その負担から学校に行けなくなってしまうなどです。また、人間関係にも選好性は影響します。たとえば、定型発達の場合は流行に関心をもったり、思春期には恋愛の話が増えたり、年齢や社会的状況によって関心事が変化していきますが、選好性が強い場合は関心事の変遷が緩やかです。そのため、子供のころは虫や乗り物に熱中し、思春期以降はアニメやゲームなどに関心が集中するなど、そのときの流行や恋愛にほとんど関心がないことがあります。そうなると、関心の狭さから周りの人と会話があわなくなり孤立や疎外を感じることも少なくありません。

こうしたASD者に対する支援としてACATというものが紹介されていました。国内で効果研究がおこなわれており、将来的にはASD者に対する標準治療になるのではないかと期待しています。ACATによる支援の特徴の1つはASD特性の正確な理解です。どのように特性を理解するのかというと、心理検査を用います。心理検査を用いる理由としては、多様な特性を丁寧に評価することに加えて「目に見えないものの理解が苦手」というASD者に対して「心理検査で見える化」して特性を共有するという点にあります。そして、特性を理解するとともに、日常生活の困りごとにそうした特性がどのように影響しているのかを視覚化して理解していきます。この際に大切なことは「中枢性統合」への配慮です。ASD者は部分的な理解が多くなるため、なるべく全体状況がわかるように視覚化したり、ポイントや要点も確認することで日常生活の問題を理解しやすくし、解決できるように支援していきます。また、必要に応じて生活に必要なスキルを身に着けることは大切ですが、選好性の理解が大切になります。ASD者は基本的に約束事やルールを遵守するので「真面目な人」に見えることがよくあります。そのため、少人数の気の合った人と過ごすことが好き、という傾向がある人でも、「みんなと仲良くすることが大切」というルールに縛られて、関心のないことに過剰に取り組んでしまうことがあります。選好性が強い場合、自分の好きなことができず、関心のないことに縛れる、強要されると負担になり、2次障害にもつながります。2次障害を予防するためにも、ASD特性については良い、悪いという視点からではなく、客観的に理解することが大切です。理解がないと、「コミュニケーションが苦手ではいけない、もっと練習しよう」「多くの人と仲良くならければならない」「苦手を克服しなければならない」と、スキル訓練が自己否定になってしまいます。ASD特性がある方は、ある意味、流行に流されず、自分の好きなこと、好きなやり方がある人といえます。それが少数派であろうと自分の好きなことを楽しんでよいのです。そうした自分の価値観をしっかりともったうえで、世渡りの技術、人付き合いの技術など、生活に必要な技術を習得していきます。スキルの習得が本質ではなく、特性を理解し、自分にあった楽しい生活の仕方を考えていくことが大切といます。

続いてASDの2次障害についてまとめたいと思います。1次障害とは、上記で記載したASD特性による生活の支障です。2次障害とは生活がうまくいかないこと(失敗、叱責)が積み重なることによるストレス反応です。失敗を繰り返せば、自己肯定感が低下して自己批判、自己否定的な認識が強くなったり、他者に対しても「また何かいわれるのではないか」と警戒心が強くなり安心した人間関係が難しくなります。また、こうした問題によって感情の制御も困難になり、不安になりやすくなったり、怒りっぽくなってしまうこともあります。研究によっては、児童(中学生)では、定型発達者の8倍近く登校拒否行動が出現するというものもあります。また、成人の場合はASD者の79%がメンタルス上の問題を抱えたことがあるといわれており、生きづらさが理解できると思います。ASD者への基本的な対応は特性の理解と支援により2次障害を予防することにありますが、ASDに気づかれないままに2次障害を抱えてメンタルクリニックを受診する成人の方も少なくありません。最後に、ASDと合併しやすいメンタル疾患とその心理社会的支援ついて書きます。

1つめはうつ病です。うつ病は「楽しめない、楽しむ意欲がわかない」「気分が沈む」といった気分面の症状から「眠れない」「食べれない」といった身体面の症状、「集中力の低下」「判断力の低下」といった思考面の症状などが代表的です。日本ではうつ病になりやすい性格(病前性格)として「真面目」「几帳面」「熱心」「変化に弱い」などがよく紹介されます。しかし、科学的な結論としては「うつ病になりやすい性格」はなく、どんな性格の人でもうつ病になるといえます。ここで問題といえるのは、こうした病前性格はASD者の特徴といえる点です。ASD者は「明文化されたルール(仕事の進め方、期日など)を守り、ルーティン化やパターン化が得意で、好きなことに熱中して取り組みます。そうした姿は周りから「まじめで熱心」と見えることがあります。反面、過剰にノルマ化して自分を追い込んでしまったり、人によって言うことが違ったり、変更が多い環境への適応が苦手です。ASDに伴ううつ病の場合には、うつ病治療のみならず、過剰適応対策として仕事への取り組み方を整理したり、職場やご家庭に特性への配慮を求めたり、負担の少ない環境で過ごせるように調整することが必要になります。

2つめは強迫症です。強迫症では、自分の意思に反して不安になる考えが思い浮かび、頭から離れず(強迫観念)、それを振り払うために特定の行為を繰り返します(強迫行為)。例えば、外出時に「鍵をかけ忘れて泥棒に入られるかもしれない」と心配になり(強迫観念)、玄関の鍵を繰り返し確認(強迫行為)して遅刻するといった問題が生じます。こうした問題に対しては認知行動療法(カウンセリング)の暴露反応妨害法が有効であることがわかっています。一方で「ちゃんと閉まった感じがしない」ので鍵の確認を繰り返すという、感覚にこだわる強迫もあります。このタイプ強迫症状には暴露反応妨害法は有効ではないことが多く、ペーシングなど他の技法を用います。そして「感覚にこだわる」タイプにはASD者が多いかもしれないといわれています。そのため、ASDに伴う強迫症の場合は、症状ごとにメカニズムを丁寧に理解して支援する必要があります。

 ほかにも、空気や他者の気持ちの読み取りが苦手なことから、他者の言動に過敏になり、対人場面で恥をかくことを恐れて社交不安障害になったり、家庭、学校、職場と複数の場面で適応に失敗したりいじめやハラスメントを受けて複雑性PTSDに陥ってしまったりと、関連するメンタル疾患は多くあります。このようにメンタル疾患の背景にはASDが存在していることがあり、見逃すことで「難症例」となって長期化してしまうこともあります。ASD特性があることで生きづらさを感じて苦労している方も多く、そうした方にエビデンスに基づいたよりよい支援を提供できるよう、今後も研鑽を続けていきたいと思います。

臨床心理士/公認心理師 岡田

 

MunkhaugenEK et al. (2017) Individualcharacteristics of students with autism spectrum disorders and school refusalbehavior. Autism, 23(2):413-423.

 

Lever and Geurts. (2016)  Psychiatric Co-occurring Symptoms andDisorders in Young, Middle-Aged, and Older Adults with Autism Spectrum Disorder.J Autism Dev Disord,46(6) :1916-1930.

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