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PTSDはベトナム戦争後の退役軍人の研究によってよく知られるようになりました。
自分や他の誰かが危うく死ぬ、または重傷を負う、身体の一部を失う脅威に曝されるといった外傷(トラウマ)的なできごとに直面した後に発症します。たとえば、戦争やテロ、自然災害、身体的、精神的、または性的な暴力、深刻な事故などです。
これらの外傷的なできごとの後(しばらく経ってから発症する場合もあります)から、不眠や小さな物音にもビクッとするような過覚醒状態、茫然自失、再体験、回避などの症状を呈します。
再体験というのは繰り返されるフラッシュバックや外傷的な場面を夢に見ることなどです。回避は、トラウマを思い出すような状況を避けることです。
治療法としてはSSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害薬)やその他の抗うつ薬を使った薬物療法、CBT(認知行動療法)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などはPTSDに効果があるというエビデンスがあります。
PTSDの中でも特殊なものとして複雑性PTSDと発達性PTSDがあります(もちろん多くが互いに重複しています)。
複雑性PTSDは慢性的で繰り返されるトラウマの結果起こります。例えば監禁や虐待、または傷つけられる体験から逃れられない状況が続く場合などがあげられます。
発達性PTSDとは、心と脳の発達に広範な影響を与える幼少期の慢性的に繰り返されたトラウマの結果です。
実際には、単純性のPTSDであってもその患者の人生は教科書に書かれているほど単純ではありません。トラウマを伴うようなできごとが起きた後の生活は、以前の生活と同じとは限らないからです。
例えば災害にあった人々の中には家や、家族や、仕事や、その他さまざまな貴重な財産を失う人が大勢います。そしてしばしば、普通の日常生活を取り戻すことは非常に困難であるか、または非常に長い時間がかかります。そのとき、人々は外傷的な状況にとらわれてしまったように感じるかもしれません。つまりその状況は複雑性トラウマに似てくるのかもしれません。
精神分析を創始したジークムント・フロイトはトラウマを、心の防御シールドに空いた穴だと表現しました。シールドに穴が開くと、感情の洪水に圧倒されてしまうことから心を守る、通常の思考能力が失われてしまいます。そうするとトラウマによる初期反応として、患者はショックを受け、心の機能がバラバラになってしまいます。
そして第二段階に進むと、恐怖、虞(おそれ)、迫害感、自分がバラバラになってしまいそうな気持ちなどの強い不安を感じ、世界の全ての良いこと、守られ愛されうるという希望が完全に失われてしまったと感じるかもしれません。希望の喪失がトラウマの中心的な問題なのです。私個人的には、こういった患者に対して、薬物を処方したり、定型的な精神療法を行ったりするだけでは不十分だと考えています。
キャロライン・ガーランドという英国の精神分析家はPTSDの治療について以下のように述べています。
「誰か理解してくれようという意図を持った人物に話を聞いてもらえるという感覚から治療が始まります。外的にも、患者の心の中にも起きてしまったそのできごとの衝撃のいくらかでも、もし治療者が完全に圧倒されることなく受け入れることができれば、意味のある世界をもう一度再構築できる希望がでてくるのです。」
北参道こころの診療所 院長 庄司 剛
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